日本人のこころ〜神宮の森〜

神宮の森とは

「神宮の森」とは、伊勢神宮の森のことです。
 伊勢神宮は、三重県の南東部に位置する伊勢市に鎮座しています。比較的温暖な気候帯に属し、北は伊勢湾に面し、中央には日本一の清流として知られる宮川や五十鈴川が流れ、また朝熊ヶ岳をはじめとする山々の緑豊かなところです。
 また伊勢志摩国立公園の玄関口でもあり、豊かな自然と美味しい食材に恵まれるとともに、歴史と文化に富んだ名所・旧跡も数多くあります。

 「お伊勢さん」「大神宮さん」ともいわれる伊勢神宮は、皇大神宮と豊受大神宮を中心とする125社の総称で、日本で最も貴い神社です。正式には「神宮」と申します。
 皇大神宮は「内宮」とも呼ばれ、皇室の御祖神であり、日本人の総氏神でもある天照大御神をおまつりしています。
 豊受大神宮は「外宮」とも呼ばれ、天照大御神のお食事をつかさどる豊受大御神をおまつりしています。日本人の主食であるお米をはじめ、衣食住のめぐみをあたえてくださる産業の守護神でもあります。
 お伊勢さんの参道を歩くと、神宮杉やクスノキをはじめ、樹齢数百年という巨木を目にすることができます。参道を一歩入ると、そこは神宮の森。神様の領域です。

 神宮の森は、天照大御神が現在の神域にご鎮座になられたときから、大神の山として崇められています。伊勢市の南部に位置する標高300~500メートルの尾根が、内宮を囲っています。この山々は「神路山」、「神垣山」、「島路山」と呼ばれる宮域林で、五十鈴川の水源となっています。本写真展で展示された水系写真はすべて五十鈴川で撮影されたものです。

 神宮の森の面積は、5,500ha。これは東京都世田谷区の面積や、甲子園球場のおよそ1400個分に相当します。

 宮域林は、半分が天然林を占め、スギ、モミ等の針葉樹に加え、カシ、シイ、タブノキ、クスノキ、ヤブツバキ、サカキ等の常緑広葉樹(照葉樹)が混交しています。植物の種類も豊富です。針葉樹と照葉樹がともにある森というのは、神宮の森の大きな特徴であり、作品の中でも朝靄に煙る森の姿が数多く捉えられています。

 伊勢神宮では、20年に一度社殿を造り替え、大神にお遷りいただく「式年遷宮」が1300年に渡り、行なわれています。
 原初は、伊勢の山々でご用材がまかなわれていましたが、次第に良材を調達するのが困難となり、現在は、長野県と岐阜県にまたがる木曽の国有林からヒノキをいただいています。
 神宮では、再び伊勢の山からご用材がいただけるよう、大正時代に200年後を見据えた計画を立てました。これを「神宮森林経営計画」といいます。
 神宮司庁の中に営林部が設けられ、専属で管理されています。神宮の尊厳を守ることを目的に、宮域林を守り育て、風致景観を維持し、水源をかん養し、式年遷宮のご用材の供給体制を確立することを目指しています。長年に渡り自然生態系の保全に気を配りながら、およそ5,500haの宮域林の管理に取組んでいます。

 将来を見越しヒノキを育てるために、神宮では、毎年宮域林に植樹をしています。さらにはヒノキの母樹から種を採り、春に種をまいて苗木をも育てているのです。

 育てた苗木を植林し、下草を刈り、枝打ちを行い、間伐をします。小さな苗木が、かぐわしい良木に育つことを願って、神宮の森をいつも見守り大切に育てています。
 そして、今回第62回式年遷宮で宮域林の間伐材が使用されることとなりました。鎌倉時代以来、実に700年ぶりのことです。

 本写真展「日本人のこころ」~神宮の森~は、神宮司庁の全面的なご協力のもと、神宮の森に分け入り、森の奥底の姿に触れてみたものです。

 私たちの暮らしは古来、自然とともにありました。特に「森は海の鳥居」とも言われ、身近な森の恩恵を受けて暮らしてきたのです。森に感謝し、そして時に自然の脅威に接し、畏れ崇めました。

 「神宮の森」を見ていると、畏敬の念や感謝の気持ち、伝統や信仰の心など、「自然と人」の関係を思い出します。それは今もなお、私たち日本人の自然観の原型であることに気づきます。
 本写真展は第62回伊勢神宮式年遷宮を迎えて注目度の高まっている伊勢の知られざる一面をご紹介し、より多くの方々に伊勢を知っていただき、また、現代生活では風化しつつある自然に対する「日本人のこころ」を、原点に立ち返ってみつめ直していきたいと考え企画されました。
 カメラマンは地元を知り尽くした森武史氏。朝日の昇る前の薄暗い神宮の森に立ち、光によって描き出される森の神々しい姿を見事に写し出しています。